産後2週間目、まず父方の祖母が息子(ひ孫)に会いにきてくれた。
祖母は北海道の片田舎に住んでいる。
家に入り開口一番、
「そうそう、ひ孫の名前を細木さんと寂聴さんにみて(占って)もらったよ。」
細木さんとはあの細木数子、寂聴さんも瀬戸内寂聴その人である。
祖母の話をそのままで聞くとすれば、
彼女は数ヶ月に一度、
細木数子と瀬戸内寂聴に会っているようである。
しかしどう考えても細木数子は一般庶民を相手に占いなどみてくれるはずはなく、
父の母(祖母)に細木数子に占ってもらえるほどの財力はない。
ましてや、
寂聴と数子が2人並んで占うなんていう話はきいたこともない。
というか寂聴は占い師じゃない。
確かなのは、北海道の中央に位置するある土地で、
と年寄り相手に名乗っている輩がいるということだけだ。
私と弟は何度か祖母に
「〇〇市には細木数子も瀬戸内寂聴もいないよ。だめだよそんな嘘をつく人にお金払っては」
と注意した。
祖母は意志がハッキリしておりボケけてはない。
しかし、私ら孫が注意する度に、
祖母は「ええ、そう?そうなんだけどね」など笑って誤魔化す。
そんな母(祖母)をもつ私の父は
「一回3千円らしい。まあ問題ないだろ」と言って、
私と弟が止めるように頼んでも取り合ってくれない。
そんな祖母、ひ孫の顔と私の顔を交互に見ながら
「ひ孫の名前を占ってもらうとね」と続けた。
私は、
”ああまた会いにいったのか。数子に3千円、寂聴に3千円で計6千円…。
一体どんな顔して数子だ寂聴だと名乗っている輩がいるのか見てやりたい”
という考えがよぎった。
とは言え自称数子と寂聴が
自分の息子のことをどう言ったのか、
ちょっと気になって次の言葉を待った。
「ひ孫の名前はすごく良い名前だって言っていたよ」
数子も寂聴も、私の息子の名前は良いって言ったんだ。
数子ではない数子と寂聴ではない寂聴の言葉に安堵した。
「あとね、のえみちゃんの旦那さんの名前もみてもらったんだよ」
夫はすでにその名前で33年生きてるから今更どう言われてもどうもならない。
私の横で夫は苦笑いしている。
「すごく良い名前だって。旦那さんが良いから、良い家庭になるって」
数子と寂聴を名乗るだけあって一歩先の時代を読んでいる。
”家庭は女が仕事は男”という既成概念から脱して、
夫が良いから家庭が良くなるなんてなんとも余裕の占い結果である。
祖母は最後に、
「すごくよかったね、のえみちゃんよかったね」と〆た。
その横で彼女の息子である私の父がゴルフトーナメントの中継をTVでみながら、
鼻で笑って聞いていたため、
その様子を見た祖母は、
「あんた真面目に聞きなさいよ。
のえみちゃんはちゃんと聞いてるのにあんたなんでふざけてんの」
と叱る。
祖母には数子と寂聴のところへ行って欲しくないのは変わらない。
これまで私は何度も父に
「その祖母が言う数子と寂聴に一度会いにいったほうがいい」
とけしかけてその際には私も興味本位で同行しようと思っていたが、
数子と寂聴に会うのはなんだかこわくなってしまった。
なんていうんだろう。
ニセモノの数子と寂聴でも、
私の息子たちや夫の名前を「良い名前」と言ってくれる人に、
情がうつってしまったのかな?